クレーム対応をする際に、スタッフが心得ておかなければならない基本的な視点があります。それは「ギャップ」です。クレームを下さる患者と医療スタッフの間には大きな溝(ギャップ)があるのです。このギャップ理解せずに、「患者の立場を理解しましょう!」といってもなかなか難しいことです。
何よりも、クレームの対応をする際には「患者の立場を理解する」ことが大切です。でも、それは医療スタッフとしての立場を踏まえて「理解しよう」としても患者の発言は理解できないでしょう。なぜなら、患者のクレームの世界観と医療スタッフのクレームの世界観は全く違うのです。
下に示したように、患者がクレームを下さるときに作り出す「世界観」は、自分のことが全てだということです。医療スタッフ側から見れば、お客様はたくさんの患者、クレームの一つに過ぎないわけです。ですから、医療スタッフとしては定式どおりに処理したいのです。このような世界観の違いが小さな一つの所作や発言にも大きく影響して、患者の気分をさらに害してしまうことがあるのです。
■持っている情報・知識の量と質
【患者】 不完全な情報・知識
【医療スタッフ】 より豊富な情報・知識
■ひとつのクレームに対する姿勢
【患者】 自分のことがすべて
【医療スタッフ】 たくさんの案件のうちの一つ
■クレームに対する原則
【患者】 権利意識
【医療スタッフ】 医療知識、組織の原理
■クレーム解決に求める対応
【患者】 感情的な対応を求める
【医療スタッフ】 論理的な対応を探る
また、患者は必ずしも商品やサービスのプロではないのですから、詳細に、客観的にクレーム状況を説明することはできません。一方、医療スタッフは接客サービスのプロであり、商品知識は患者に比べて豊富なのです。豊富な商品知識を基にしてクレームを聞いたときに、「それほど大きな問題ではない」といった意識が生じてしまうこともあるのです。しかし、患者の世界観から言えば、どんな小さな不具合も大きな問題に見えてしまうものです。
患者はクレームも含めて患者の権利として認識されている方が多いです。一方、医療スタッフのほうは医療知識や組織としての原理が見え隠れします。「そんなことに対応していたら、医療機関に大きな負担になる」など、組織としての善悪で判断しがちです。しかし、患者は自分の権利を主張し、自分の利益を確保したいという基本的な目的があるのです。
このように、患者と医療スタッフの世界観は大きく対立しています。しかし、どちらが正しいという神学論争は必要ありません。サービスには「善悪」「真偽」の対立はないのです。たとえ、患者が間違った主張をされているとしても、医療機関、医療スタッフ側がそれを「間違っている!」と主張すること自体が「アウト」なのです。医療スタッフが正義を追求しても、医療機関が経営的に成り立たなければ、何も得るものはありません。医療機関は患者に満足していただき、医療機関が存続していくことが大切なのです。
ですから、患者の主張と医療スタッフの考え方が根本から違っていたとしても、医療スタッフが自らの主張をしてはならないのです。「患者の主張が正しい」が正解です。
患者と医療スタッフの世界観のギャップはあって当たり前です。しかし、このギャップの存在をよく理解しないで、「患者の立場に立て」といっても無理なのです。患者のクレームが正しいという前提に立って、その上で「患者の立場に立つ」ことが必要なのです。
一見、理不尽な考え方かもしれません。お客様がどんなに間違っていたとしても、スタッフは反論できないのか?
いいえ、そういうわけではありません。これは「全体」としての流れ・考え方です。
お客様の主張は正しい。それがどんなに非合理的で、主観的なクレームであっても正しいのです。ですが、最初に述べたように、商品知識があまりない、損をした気分で気が立っているなど、お客様にも間違っている部分もあるかもしれません。
そんな時は「しかし、この部分については、こうではありませんか?」といったような部分的修正の論法は可能です。
この「お客様の主張の部分的な修正」こそが、クレーム対応のプロとしての土俵(リング)なのです。相手の立場を理解しながら、お店、会社のルールも理解してもらう。それがプロです。